【B】星のない夜 ~戻らない恋~
8.視線の先に映るもの -葵桜秋 -
入社式。
朝から念入りに身支度を整えて、
真新しいスーツに身を包む。
今日から私も社会人。
少し高めのヒールをカツンカツンと鳴り響かせながら
出勤する憧れの会社。
誰がどう見ても、
咲空良と姉妹には見えないはず。
都城と言う名字も、珍しいから瑠璃垣では母の旧姓を名乗れるように、
お父様に取り計らって貰った。
瑠璃垣怜皇の許婚の妹。
そう言う立場で、色眼鏡で見られたくないからと懇願して。
ありのままの私を見て欲しいから。
咲空良と比べられながら、
歩き続けるのはもう嫌だから……。
告げられるものなら、高校時代、咲空良と名乗って
神前悧羅(こうさきりら)学院の舞踏会に出ていたのは私です。
そうやって宣言出来たら、
自己満足出来るのかもしれない。
だけど……だからと言って、
今の状況が改善されるわけじゃない。
私は私のまま、一歩ずつ踏み出していくって
決めたのに。
入社式の間、指定された椅子に座りながら
見つめ続けるのは、中央の巨大モニターに
大きく映し出された、久しぶりに見る怜皇様の姿。
怜皇さまを見つめ続ける私の傍、
周囲からは、ひそひそと噂話が耳に入る。
☆
瑠璃の君にフィアンセ現れる
☆
そう囃し立てるように書かれた咲空良と怜皇様の関係を
スクープした記事が発売されたことが噂話の一因なのかも知れない。
思わず耳を塞ぎたくなる声を必死に頭の中から追い出して
見つめ続ける怜皇様の姿。
入社式の後、配属される部署が発表され
そこで思わず、心の中ガッツポーズ。
神様が私に味方してくれた……そんな風に思えた瞬間。
配属された部署の総責任者の名前には、
怜皇様の名前がしっかりと刻み込まれていた。
そのままデスクへと案内された私は、
自分の身の回りを整えて、仕事に対応できるように環境を整えながら
チラチラと視線を向けるのは怜皇様いる別室の扉。
怜皇さまの秘書らしきスーツ姿の女が、
何度も出入りするその扉を見つめながら、
与えられた作業を進める地味な時間。