【B】星のない夜 ~戻らない恋~

8.視線の先に映るもの -葵桜秋 -



入社式。


朝から念入りに身支度を整えて、
真新しいスーツに身を包む。



今日から私も社会人。



少し高めのヒールをカツンカツンと鳴り響かせながら
出勤する憧れの会社。



誰がどう見ても、
咲空良と姉妹には見えないはず。



都城と言う名字も、珍しいから瑠璃垣では母の旧姓を名乗れるように、
お父様に取り計らって貰った。



瑠璃垣怜皇の許婚の妹。
そう言う立場で、色眼鏡で見られたくないからと懇願して。






ありのままの私を見て欲しいから。



咲空良と比べられながら、
歩き続けるのはもう嫌だから……。




告げられるものなら、高校時代、咲空良と名乗って
神前悧羅(こうさきりら)学院の舞踏会に出ていたのは私です。



そうやって宣言出来たら、
自己満足出来るのかもしれない。




だけど……だからと言って、
今の状況が改善されるわけじゃない。




私は私のまま、一歩ずつ踏み出していくって
決めたのに。




入社式の間、指定された椅子に座りながら
見つめ続けるのは、中央の巨大モニターに
大きく映し出された、久しぶりに見る怜皇様の姿。



怜皇さまを見つめ続ける私の傍、
周囲からは、ひそひそと噂話が耳に入る。







瑠璃の君にフィアンセ現れる







そう囃し立てるように書かれた咲空良と怜皇様の関係を
スクープした記事が発売されたことが噂話の一因なのかも知れない。




思わず耳を塞ぎたくなる声を必死に頭の中から追い出して
見つめ続ける怜皇様の姿。



入社式の後、配属される部署が発表され
そこで思わず、心の中ガッツポーズ。



神様が私に味方してくれた……そんな風に思えた瞬間。



配属された部署の総責任者の名前には、
怜皇様の名前がしっかりと刻み込まれていた。




そのままデスクへと案内された私は、
自分の身の回りを整えて、仕事に対応できるように環境を整えながら
チラチラと視線を向けるのは怜皇様いる別室の扉。




怜皇さまの秘書らしきスーツ姿の女が、
何度も出入りするその扉を見つめながら、
与えられた作業を進める地味な時間。
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