【B】星のない夜 ~戻らない恋~


それより、今の瑠璃垣の暗闇に……
外部から不幸になるのを知りながら、招き入れることなどしてはならない。


そんなふうにすら思えて。



写真をめくりながら、聖フローシアに通う彼女の写真が何枚か映し出される。



悧羅学院の生徒総会と、聖フローシアの生徒会で開催された、交流会のお茶会。
あの時、聖フローシアの代表生徒として紹介されたのは彼女。



彼女が俺を覚えているかどうかは……、
その話題に触れるかどうかで、判断をすればいい。



彼女が俺を覚えているならば、
俺もまた……嫁いでくることが決まっているのであれば
養母の想いに背いても、俺がゆっくりと時間をかけて彼女を守ればいい。



だけど……彼女が覚えていないなら……、
俺自身が昔の言葉に捕らわれ続けることはない。





瑠璃垣の時期後継者の存在は必要ない。


俺は独身を貫いて、瑠璃垣の闇に縛られる存在は
俺自身の死を持って終止符を打つ。


身内だけで世代交代を続ける必要ももうないだろう。
優秀なものが、瑠璃垣のブランドを守っていけばそれでいい。



そんな風に思う俺自身。




自分に正直になるのは、簡単なようで難しすぎて
幼い頃から、大人の顔色を窺って過ごし続けた身には
今もその習性から抜け出すことが出来ない。





TVを切って、風に当たろうとベランダに続く窓ガラスを開けたところで
玄関が開く音が聞こえる。




「ただいま、遅くなって悪い」

「いやっ。お疲れさま」

「怜皇、また何か考えてた?」




帰って来てそうそう、俺を気遣う親友の対応も
ある意味、習慣に基づく癖なんだろう。


アイツは、昔から……いろんなことに敏感だったから。




「あぁ、お祖父さまだよ」

「あぁ、今度は会長からの連絡ですか……」

「まぁな。
 そろそろ一度、邸に戻らないといけないかもな」

「だろうなー。
 瑠璃垣の入社式も終わったんだろ。

 丸1ヶ月、婚約者を避け続けてたわけだろ。

 お前の許婚の都城咲空良さんだった?
 心(しずか)さんの親友みたいで、心(しずか)さんも
 咲空良さんと連絡がとれないって心配してた。

 だから……俺としても、心(しずか)さんの為に
 様子見てきて貰えたら有り難いって思ってる」



そんな風に、本音を伝える睦樹。




新たに追加される、睦樹の想い人の親友としての情報の追加。



益々、わかんねぇ。
けど……そろそろ、一度は帰らないといけないよな。




そんな風に覚悟を決めた夜。



翌朝、睦樹の自宅から会社へ出勤して、
幾つかの商談をこなした後、約1ヶ月ぶりに自宅へ帰るように伝える。



自宅のエントランスに車が滑り込むと、
見慣れた使用人と共に、着物姿の彼女がゆっくりとお辞儀をする。

< 29 / 232 >

この作品をシェア

pagetop