【B】星のない夜 ~戻らない恋~

妹の葵桜秋は、人付き合いもスムーズで
すぐに誰とでも仲良くなって、誰とでも輪を作れる。



それと違って、私は引っ込み思案。


自分からはすぐに動けなくて出遅れてしまう。



だから友達もなかなか出来なくて
いつも教室の隅に一人でいることが多かった。



そんな私を助けるために、葵桜秋は私に成りすまして、
次から次へと私を装ってパイプを作っていく。


葵桜秋の力を借りて出来た友達が
やがて私の周囲を包み込むようになった。



だけど……時折、
孤独に押しつぶされそうになる。



「咲空良……」



その場で立ち止まったまま、賑やかに視界から消えていく葵桜秋を視線で追い続ける私に
気遣うように声をかけてくるのはこの学校で最初で最後、
私が自分の力で声をかけて作ることが出来た本当の意味での親友。



廣瀬心【ひろせ しずか】。



心は、私の傍にゆっくりと近づいてくると
覗きこんだ。




「咲空良、大丈夫。
 私は咲空良の友達よ。

 どれだけ外見が似ていても、
 私はちゃんと見分けられるわよ。

 咲空良は咲空良。
 葵桜秋は葵桜秋でしょ。

 私、卒業パーティには出掛けずに今から大東さんと会うの。

 良かったら、咲空良も来ない?

 咲空良が姿を見せると大東さん、喜ぶのよ」



心が大東さんと呼ぶのは、大東睦樹【だいとう むつき】さん。

心のお父さんの工場に、技術を身につけるため
本社の瑠璃垣から研修しに来ている社員さん。


睦樹さんとは数度、心と一緒に顔を合わせたことはある。


何度も何度も、心のことを聞いてきた。
睦樹さんと心は、心が惹かれあっているのだと感じた。




だけど……睦樹さんの想いは心には届かない。


そんなジレンマが、睦樹さんの行動を気になる心<しずか>について訊ねてくる形で
私と接する時間が多くて。


そんな時間を、心<しずか>は私たちが惹かれあっていると
勘違いして、一歩身を引いてしまう。


そんな二人のすれ違いを気になりながら
私はどうすることも出来ないでいた。



「ほらっ、咲空良。
 睦樹さん、校門の前で待ってる」




人が殆どまばらになった、校内から校門に続く
並木道を歩いていくと睦樹さんが門のところで手を振って笑ってた。



そして睦樹さんの隣には、見知らぬ男の人。



睦樹さんは、その人と親しげに会話を交わすと
傍にあったスポーツカーの運転席へと体を沈めた。


走り出した車を見送りながら、隣で心<しずか>は何かを考えているようで
暫く黙りこむ。



「心?」


「そうっ。
 そうよ、さっきの人何処かでみたと思ったのよ。

 大東さん、どうして?
 ビジネス誌を賑わせてる、瑠璃垣の御曹司がいたのよ。
 
 大東さんと親しげに」



大きな声でそうやって告げた心の言葉に
私も何度か覗いたことのある、部屋に転がっていた、
葵桜秋が所有するビジネス誌を思い返してた。



「あの人が……瑠璃垣怜皇<るりがき れお>」



小さく吐き出すように呟いた。
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