【B】星のない夜 ~戻らない恋~

10.居場所のない時間 後編  -咲空良-



怜皇さんに会ったのはあの日一度きり。


その日以来、怜皇さんは一度も
私の傍に訊ねてくることはなかった。



突然、怒ったような表情を見せた怜皇さんの顔が
今も脳裏から離れることはない。



毎日、朝起きてご飯を食べて決められた時間に、
経済学と語学の講師が屋敷にしてびっしりと勉強する。



勉強の後は、一人だけのティータイムをして
塀の内側の庭園を花楓さんをお供にぷらぷらと散策。



そうして一日が同じ繰り返しで過ぎていく。




ストレスだけが溜まっていく時間。





心(しずか)と電話でも出来たら、
心は晴れるのかも知れないけど……
私の私物は、財布・携帯・ハンカチ・チリカミ。


携帯電話はあれど、屋敷についてすぐに充電が切れた
携帯はその意味をなさない。


後から送られてくると言われていた私の荷物は、
今も運び込まれた形跡はなく携帯電話を充電しようにも、
充電することすらかなわなかった。



電池パックを抜いたりさしたりして一瞬だけでも電源が入って、
メールが送れないか、何度かしてみるものの
電源が入る形跡もないまま、ただ時間だけが過ぎていった。




当初、怜皇さんが二人の寝室に入ってこないことに
安堵していた私もあの日以来、何一つ音沙汰がなくなってしまうと
不安も生じてくる。



一週間が過ぎ、二週間が過ぎ姿を見ない日が続けば続くほど
安堵が寂しさや不安に変わっていく。




そして、もう一つ私を惨めにさせるのは
瑠璃垣の屋敷に住む、使用人たちの噂話。




屋敷を移動する私に、使用人たちはお辞儀をするものの、
通り過ぎた後には、背後からひそひそと声が聞こえる。

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