【B】星のない夜 ~戻らない恋~
『咲空良さま、瑠璃の君を突き飛ばしたそうよ』
『会長の言い交しで約者だなんて、
瑠璃の君も良い迷惑でしょうに』
『瑠璃垣にとってのメリット、デメリットを考えるに
今や瑠璃垣が吸収したの傘下にある都城との婚約はデメリット以外ありえないでしょう。
先代会長同士がご友人だったからと、
お孫様の瑠璃の君にとばっちりがいくなんて
本当、見ていられないわ』
『咲空良さま、もう少しコミュニケーションに秀でた方だと
期待してましたのに、あんなので瑠璃の君の隣に立って
社交界に出られますの?』
耳を塞ぎたくなる言葉から自分を庇うには、
自室に引きこもるしか出来なくて。
嫌われたかと思う不安は、
日ごとに大きくなっていく。
それと同時に、もう一つ湧き上がるのは
婚約が告げられた時に親より託された言葉。
『咲空良は瑠璃垣の坊ちゃんが望まれるようにしなさい』
その言葉の重みは、なんとなくわかってるばす。
会長であったお祖父さまが他界されて、
父と叔父さまが後を継いだ会社経営。
それでもお祖父さまが他界された影響力は大きすぎて、
破産寸前まで追い込まれていた会社を、吸収合併と言う建前で
存続させてくれた瑠璃垣の会長さん。
お父様は瑠璃垣の社員となって今は働き、
叔父様が、うちの会社の代表として瑠璃垣の子会社の一つとして切り盛りしている。
厳しい現実問題。
大手企業のパックアップがなければ生産業界なんてまわっていかない。
そういう意味では、私は大手企業とのパイプをしっかりと
提携させるためには必要不可欠な鍵。
どれくらい経済情勢に疎くても、
それくらいのことはわかってる。
だからこそ……自分の一族から託されたプレッシャーも大きいのに。
そのフィアンセである怜皇さんがあれ以来、
一度も姿を見せないのだから何をすることも出来ない。
何も知らない貴方のことを、私も何度も時間を重ねて
少しずつ知っていきたい。
そして好きになりたいの。
政略結婚だなんて思うのは嫌だから。