【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「今すぐ、怜皇ぼっちゃんにご連絡いたします」



そう言うと、一礼して私の場所を離れた
花楓さんが、子機を手にして戻ってくる。



手慣れた手つきで、電話番号をプッシュする知可子さん。



「秘書の東堂さまの携帯です。
 咲空良さま、どうぞ」



手渡された子機を掴んで耳元にあてる。



「もしもし。東堂です」



数回コールがなっただけで、
キリっとした声が
受話器の向こうから聞こえる。



「おはようございます。
 都城咲空良です。

 怜皇さん、いらっしゃいますか?」


勇気を出して告げた言葉。


「おはようございます。

 咲空良さま。

 怜皇さまですね、
 今、朝の会議が終わって退室されます。
 暫くお待ちくださいませ」



保留音が続く時間。

緊張からか手が汗ばむ。



「もしもし」



保留音がブチっと切れて、
受話器から低い男性の声が聞こえた。


「もしもし、咲空良です。
 あの……私の荷物は何時届きますか?」


必死の思いで伝えた言葉に、
向こう側から怜皇さんの溜息が聞こえた。



「君はそんなことで電話して来たのか?
 俺は忙しい。

 君に必要なものは全て揃えてある。
 必要なものは、東堂か木下に伝えろ。
 
 君の実家からの荷物は全て処分した」



電話はその直後、ブチっと途切れた。


電話の向こう側からは、
空しい音だけが響き続けていた。


実家からの荷物は処分した?


私の断りもなく?
あの中には私の大切な思い出も沢山詰まっていたのに。



そう思うと、
じわじわと瞳から涙が溢れ始めた。




「咲空良さま?」




気遣うように告げる知可子さんの声。

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