【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「咲空良の妹ですって言えば、近づけるでしょ?
貴女は怜皇さんのフィアンセの実の妹なんだから。
怜皇さんは、貴女にとって将来の義兄になる方なんだから」
突然飛び出した耳を塞ぎたくなる言葉に
慌てて鞄を掴むと、玄関から飛び出した。
私にとってのタブーを軽々しく口にする
母の言葉に吐き気すら覚える。
咲空良が出て行ってからも、
私の生活は咲空良は掻き乱される。
実家に居ればいるだけ、息が詰まりそうになる。
独立しなきゃ。
マンスリーマンションでも何でもいい。
あの家で、ずっと聞きたくもない言葉を聞きながら
生活続けるなんて耐えられない。
咲空良なんて知らない。
怜皇さんのことを……ずっと憧れて続けてきた私の心を
知ろうともしないで……。
貴女の義兄になる……義兄ではいやよ。
咲空良の傍に立つくらいなら私の傍で微笑んで。
咲空良のことをきっぱりと切り捨ててくれるなら、
私は部署の片隅、貴方を思い続けて見ているだけでもいい。
悔しさから溢れ出た涙をハンカチで抑えて、
最寄り駅のお手洗いで急いで崩れたメイクを直して
出社を急いだ。
その日の朝、出社した私は
部屋の空気が違っていることに気が付いた。
「おはようございます」
挨拶をして、自分のデスクに座ると
隣に居た同期の一人、佐光奈都(さこう なつ)が声をかけてきた。
「おはよう、近衛さん。
今日、瑠璃の君がいらしてるのよ」
ひそひそと紡いで教えてくれた情報に心が弾んだ。
「近衛さん、佐光さん。
先ほど、東堂秘書より連絡がありました。
何時もより遅くなっだけど貴女たち二人の歓迎会を、
怜皇さまがしてくださるみたい。
今日だけど、都合はつくかしら?」
告げる先輩社員、葉村桜子(はむら さくらこ)さんの声も
テンションが高かった。
やっぱり……競争率高いんだ……。
咲空良なんて怜皇さんを思う人たちに
潰されてしまったらいいのに。
何のとりえもない、
私が居ないと何もできない咲空良。
だけど……私は違う。
私は自分の意志で、咲空良の妹だなんて言うやり方じゃなくて
この会社で自分の居場所を確保して見せる。