【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「はいっ。私、嬉しいです。
参加します。
自宅に連絡だけさせてください。
親が子離れしてなくて少しでも帰りが遅くなると電話が凄くて」
そう返した佐光さんは、そのまま鞄から電話を取り出して
家族らしき存在と話してた。
「近衛さん……貴女は参加出来そう?
貴女の事、先ほど……怜皇さまにお話したら、
いろいろと興味を示されていたわよ。
怜皇さまの新しいプロジェクトメンバーに
推薦しておいたから、メンバーに入れるといいわね」
葉村さんの言葉が心地よく響いた。
「歓迎会有難うございます。
是非、参加させて頂きたいです。
それに……怜皇さまのプロジェクトに
推薦してくださったなんて本当に嬉しいです。
これからも頑張ります。
葉村先輩、いろいろとご指導お願いします」
その日、珍しく一日奥のガラス張りの部屋で
秘書の東堂さんと二人、黙々と仕事を続ける怜皇さまを
目の端にとどめながら贅沢な時間が過ぎた。
お茶の時間には怜皇さまの傍にまで行く機会もあった。
ハンコが必要な書類を手にして、
その部屋を訪ねる機会もあった。
入社して以来、こんなにも近くで怜皇さまを感じられる日は
初めてで……咲空良のことも、朝のこともどうでもよくなってた。
17時、定時の退勤時刻。
社内に鳴り響くコールの後、
ガラスの部屋から怜皇様が姿を見せた。
「私の都合で歓迎会が遅くなってすまない。
東堂、予約は?」
「はい。料亭菊宮(きくみや)で
手続きを済ませております」
「そうか、菊宮がとれたか。
仕事の後で疲れているだろうが菊宮で羽をほ伸ばしてくれ」
怜皇さまがそう言うと、菊宮の料亭の名前に、
部屋内から感嘆の声があがる。
「ハイヤーの手配もしておきましたので、
すぐに移動できると思います」
東堂さんがすぐに怜皇様に告げると、
怜皇様を筆頭に部署の人たちが一斉に動き始めた。
料亭菊宮で出される懐石に舌鼓を打ちながら、
振る舞われるお酒。
給仕にまわる新人社員の私たち。
楽しい歓迎会の時間は、
夜も深まる時間へと変えていた。
勧められるお酒を断ることも出来ず、
あまり強くないにも関わらず、口に含んだ私は、
お開きの時間になっても座ったその場所から
一人で立ち上がることも出来なくなってた。
「大丈夫?近衛さん……大分顔が赤いわよ」
心配そうに覗きこむ、葉月さん。