【B】星のない夜 ~戻らない恋~

12.歓迎会の夜 -怜皇 -


五月に入って暫くしてから、
俺の部署に入ってきた新入社員の歓迎会をすることが出来た。


この四月、俺にところに入ってきた新入社員は二人。
佐光奈都【さこう なつ】と、近衛葵桜秋【このえ きせき】。



「藤堂、今日の夜は予定なかったよな」



朝、出社してすぐに、藤堂に再確認する。



「はいっ。怜皇さま、今夜のご予定はありません。
 何処かお出掛けなさいますか?」

「いやっ。
 今からでも、間に合うか?
 遅くなったが、新入社員の歓迎会をやれればと思ってな」

「そう言うことでしたら私が今から交渉します。
 怜皇様は、この後の会議のお支度を」


俺が会議に入る頃、藤堂は一礼して移動していく。


その後も同じ場所で、会議が続き三件の会議を終えた頃、
再び藤堂と合流した時には歓迎会の会場が手配出来ていた。



「歓迎会の会場は、料亭菊宮。
 クリスタルホテルのいつもの部屋も使えるように手配しています。

 会場が抑えられましたので、葉村さんへ歓迎会のことを連絡しておきました。
 皆様、喜ばれておりました」

「そうか。助かった」

「いえ」



会議の時間以外は、ガラス張りの自室に籠って
黙々と作業を続けていく。


作業に没頭している間に時間は過ぎて、
定時を告げるチャイムが車内に鳴り響く。




「さて」


独り言のように呟いて、椅子から立ち上がると
作業の相棒でもあるPCの電源を落として
スーツのジャケットに手を伸ばす。


ガラス扉を開けて、突然にもかかわらず、
皆楽しみにしていてくれていたようで、
一人残らず残ってくれていた。


「私の都合で歓迎会が遅くなってすまない。
 東堂、予約は?」


「はい。料亭菊宮(きくみや)で 手続きを済ませております」


「そうか、菊宮がとれたか。
 仕事の後で疲れているだろうが菊宮で羽をほ伸ばしてくれ」



料亭菊宮は、なかなか予約が取れないことで有名なお店で、
基本、一見さんお断りである。




怜皇さまがそう言うと、菊宮の料亭の名前に、
部屋内から感嘆の声があがる。
< 42 / 232 >

この作品をシェア

pagetop