【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「ハイヤーの手配もしておきましたので、
すぐに移動できると思います」
藤堂の言葉に、俺は「行こうか」っと告げて
最初に歩き始めた。
本社からは何台かの車に別れて、
菊宮まで向かう。
すでにオーダー済みの会席料理が次から次へと
座敷へと運びこまれていく。
それと同時に、お酒が運び込まれていく。
新入社員の二人が、先輩の給仕にまわっているのを見ながら
俺自身も水割りを口に運ぶ。
18時頃から始まった会席も21時頃にはお開きになろうとしていた。
そろそろ解散にしようかと思いだした頃、
新入社員の一人、近衛がお酒に酔ってしまったのか動けないでいるのを確認する。
「大丈夫?近衛さん……大分顔が赤いわよ」
「ねぇ、葵桜秋ちゃん。
お酒、弱かったんだー。
断れば良かったのに……」
葉月が心配そうに声をかけ、佐光もそれに続けるように声をかける。
そんな状況を確認して、俺も様子を見に近づいた。
「近衛くん、大丈夫かい?」
ふとその場所から立ち上がって、おぼつかない足で何処を探すように歩きはじめる。
慌てて彼女の体を支えるように開場している途中、
彼女は口元をおさえて激しく戻し始めた。
身に着けていたジャケットは汚れてしまった。
床の掃除をスタッフに頼むと、そのままトイレへと案内して
彼女が出てくるのを待ち続けた。
どれだけ待っても出てこない彼女が心配になって、
菊宮の女性スタッフに声をかけて様子を確認して貰う。
彼女はトイレの中で眠りに落ちてしまっているようだった。
お開きの仕度をして、彼女のことは任せて欲しいと告げて
再び彼女の元へと戻る。
今も眠り続けている彼女を抱き上げて、
そのまま車に乗り込むと、ホテルへと移動した。
*
近衛の着替えを藤堂に頼んで、
身に着けていたものをクリーニングに預ける。
それは俺自身のスーツも同じだった。
藤堂が出て行ったあと、近衛が布団で眠っているのを確認して
俺はシャワールームへと向かった。
ゆったりとバスルームで過ごしたあと、
バスローブほ巻いて出て時、眠っていたはずの彼女は目覚めていた。