【B】星のない夜 ~戻らない恋~
13.親友の恋 私の許婚 - 咲空良 -
怜皇さんが寄り付かない屋敷。
今もフィアンセと上手くいかない惨めな私。
そんなにも私のことが嫌いなら、
いっそのこと婚約を解消してくれたらいいのに。
そんな風に思う気持ちを必死に抑え込んで
その日も、何時もより早く目覚めた体を
引きずるように、着替えを済ませて自分の部屋を出た。
庭園を散策して花でも見たら
気がまぎれるかもしれない。
そう思って、玄関の方へと足を向けた視界に飛び込んできたのは、
一か月ぶりに見つけたフィアンセとは名ばかりの怜皇さんの姿。
彼はすでに出勤準備を整え終わっていて、
キッチリと皺一つないスーツを着こなしていた。
スーツのアイロンをかけることさえ、
傍に居てもさせて貰えない。
ううん、あの人には私が傍に居なくても
いろんなことをしてくれる人がいる。
その現実が私は今以上に醜くさせていく。
「おっ、おか……」
≪お帰りになってたなら声をかけてくれても良かったじゃない?≫
思わず口を滑らせそうになった言葉を必死に呑み込んだ。
「何かようか?」
軽蔑するような視線で私を見つめたその人は、
冷たい口調で言い放った。
「あっ……あの……お願いがあります。
親友の家に遊びに行きたいのですが
出掛けてもいいですか?
後……実家も顔を出しておきたいんです」
必死に絞り出して告げた言葉。
息抜きがしたい。
こんな息苦しい場所から今すぐにでも解放されたい。
そう思う心が私の本音。
常に見られ続ける生活は私には慣れることが出来ない。
私は……ただ普通の奥さんになりたい。
愛しい人の為にいろんな身の回りのお世話が出来る
そんな女性で居たいだけだから。
瑠璃垣の時期トップのフィアンセなんて
地位は、私には似合わない。
だから……。
祈りにも似た思いで怜皇さんの言葉を待つ私。
こんなにも縛られてる……。
貴方の顔色ばかり見て……過ごしてる……。