【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「そう。
今日は泊まるんだ。
何処で寝るの?」
「良かったら……葵桜秋と久しぶりに一緒に寝たいかな。
今のお家ね、
大きなキングベッドが一つしかないの。
広すぎて……落ち着かないよ」
咲空良は、そのキングベッドで
望む時に求められるまま、
夜の時間をしてるんだ……。
僅かに想像した時間と、
あの日のホテルでの
一夜が重なる。
『私、怜皇様に抱かれたわよ。
ホテルで』
そうやって咲空良に切り出したら、
咲空良は、どんな顔をするかしら?
目を吊り上げて私を罵るかしら?
それとも……
大人しく、
私の言われるままになるかしら?
そんな空想をしながら、
心の中、ほくそ笑む私。
「葵桜秋?
どうかしたの?
今日ねー、久しぶりにお母さんに頼んで
晩御飯作らせて貰ったの。
葵桜秋の好きな、
クリームパスタも作ってるから
たくさん食べてね」
私の空想時間を打ち消すように、
話し続ける咲空良の声に、
私は現実へと引き戻された。
あの秘め事は、紡がない。
私と怜皇さまだけの
秘密の時間。
「咲空良、着替えてから降りるから。
先にダイニングに行っておいて」
何事もないように装って言葉を返すと
私は背後で咲空良が出ていくのと、
ドアが閉まるのを感じた。
咲空良の服が今までと違う。
私が見たことない服を
無邪気に着こなしてる咲空良。
買ってきたばかりの
自分のを服を見つめて軽く溜息。
いつも同じものを着るわけにはいかない。
だけど予算には限りがあるわけで、
そうなってくると一着当たりのコストを妥協して
買い揃えていくしかない。
本当は私、何時も着たい服を着たいだけ
買い揃えられればいいんだけど。
そんなことしたら、
私のお財布事情が破綻してしまう。
溜息を吐き出しながら、
買ってきた洋服をクローゼットへ戻すと
咲空良が眠る予定の布団を
一式、敷いて一階へと降りた。