【B】星のない夜 ~戻らない恋~
食事の時間。
何時もは静かな我が家の食卓も
今日ばかりは、父も母も少しでも瑠璃垣の情報を引き出そうと
咲空良との会話に必死になってる。
そんな姿を見て、滑稽に思いながら
冷めていく感覚の私。
咲空良が居ても居なくても同じだね。
ウチも少しずつ変わってるんだね。
「ごちそうさまでした。
私、部屋に居るから。
咲空良の布団、敷いておいたからいつでもどうぞ」
早々に食事を終えると、
席を立って自室へと戻った。
「葵桜秋、たまにお姉ちゃんが帰って来てるんだから
ゆっくり団らんに入ればいいじゃない」
背後で母が愚痴を零す声も無視。
自室でベッドに転がって、
今月のビジネス雑誌に載っている
瑠璃の君を見つめる。
指先で辿る輪郭。
ぼんやりと辿っていた指を止めて、
雑誌を閉じる。
何やってんだろう……。
ベッドから起き上がると今日のメイクを落として、
マッサージ。
パックをしている最中にノック音が聞こえる。
「葵桜秋、入ってもいい?」
「いいよ。
パック中だから、勝手に開けて」
ドアの外に向かって、少し大きめの声で
答えると、ゆっくりと扉が開いて
咲空良が顔を出した。
「フェイスケアーしてたんだ。
手伝おうか……昔みたいに」
咲空良は少し寂しそうにそう言うと、
私の傍へと近づいてきた。
瑠璃垣に行かなかったら咲空良は、
エステ関係の道を目指してたはずなんだよね。
パックを外した後、ゆっくりと指先を滑らせるように
マッサージを再び始めた咲空良。
咲空良の適度の指圧も感じながら
目を閉じてる私は、気持ちよくて眠りに落ちてしまいそうだった。
黙ってたら眠っちゃいそう……。
「ねぇ、咲空良。
なんかあった?」
何気なく聞いた一言に、咲空良はマッサージをする手を止めて
突然、泣き始めた。
「ねぇ、葵桜秋。
どうしたらいいの?
私……あの人のことが好きになれないよ。
ずっと使ってた私の大切な私物。
何時までたっても届かないから
あの人に聞いたら、電話で一言。
冷たい声で、処分したって言うの。
携帯はあっても充電できない。
屋敷の中は、使用人に常に監視されてるし
出掛けることも、常にハイヤーの監視付。
私、何のために
あの家に行かないといけないの?」
泣き崩れる咲空良の悩みが、
私にとってとても贅沢な悩みだってことを
あの子は知らない。
知ろうともしない。
ふと脳裏に思い返るのは
遠い日の記憶。
高校生の時。
瑠璃の君と一夜のダンスを楽しんだ
その時間。
あの日も……
私と咲空良は入れ替わってた……。