【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「咲空良、泣かなくていいよ。
咲空良には私が居る。
助けてあげるよ。
私が……」
体を震わせて泣く咲空良の体を両手でそっと包み込むように
私の方へと抱き寄せる。
「大丈夫……。
咲空良が怖がることは何もないから。
咲空良の傍には私が居るよ。
ずっと小さい時から、
咲空良を助けてあげたでしょ」
咲空良が泣き止むのを待って昔からの儀式。
指切り。
小指と小指を絡めて唱える呪文。
落ち着きを取り戻した咲空良は、
穏やかに笑った。
翌朝、入れ替わりをやりやすいように
二人の行きつけの美容室に、
咲空良と二人出掛ける。
葵桜秋としての今の髪の長さに、
咲空良にも切り揃えてもらって、
今とは違う、お揃いの髪型へチェンジ。
葵桜秋としての仕事の時は、
ウィッグやエクステを多用して、
私だけのキャラ作り。
鏡に映る、
そっくりな二人。
あんなにも嫌だった同じ顔に、
今は自分から歩み寄ってる現実。
甘き誘惑は、
涙を乾かせる二人だけの呪文。