【B】星のない夜 ~戻らない恋~
15.親友の決断 俺の迷宮 -怜皇-
歓迎会の夜、近衛と一晩過ごしてその翌々日の深夜、
一度だけ邸へと戻った。
「お帰りなさいませ」
メイドたちが俺を迎え入れるものの、
そこに婚約者の姿はない。
思わずキョロキョロと視線を向ける。
「咲空良様は、22時頃にお休みになられました。
起こして参りましょうか?」
「構わない。
食事は済ませた。部屋に戻る」
「かしこまりました。
何かございましたらお申し付けください」
木下と会話を交わしてそのまま部屋に戻る。
扉の向こうには今も俺を嫌うアイツがいるだろう。
ジャケットをハンガーにかけネクタイを解き、
シャツのボタンをはずしてリラックスできる状態になると
そのままソファーに倒れ込むように眠りに落ちた。
翌日、体内目覚ましが朝を告げる。
朝食を食べて、軽く朝からメールチェック。
体力づくりの為に、トレーニング室で軽く朝を流す。
その後、シャワーを浴びて着替えを済ませると
出勤準備を整えて、藤堂の到着を待つ。
「怜皇さま、先ほど藤堂秘書が到着なさいました」
木下が部屋にまで来て、藤堂の到着を告げる。
そのまま部屋を出て一階へ。
出勤直前、庭園の方から玄関へと歩いてくるアイツ。
三月にアイツがこの家に来てから、まだ数えるほどしかあっていない
形ばかりの婚約者の姿。
婚約者は、少し怒ったような表情を見せて
歩く速度を心持ちあげて俺の方に向かってくる。
「おっ、おか……」
「何かようか?」
何かを言いだしそうな婚約者の言葉を遮るように、
彼女に視線をあわせて問いかけると、
そのまま彼女は怯えたように硬直して固まった。
「あっ……あの……お願いがあります。
親友の家に遊びに行きたいのですが
出掛けてもいいですか?
後……実家も顔を出しておきたいんです」
それでも握り拳を作って、震わせながら
俺に要望を伝える。