【B】星のない夜 ~戻らない恋~
16.悪戯の始まり -咲空良-
怜皇さんの許可を貰って、久しぶりに帰った実家。
「お帰りなさい葵桜秋。
髪……切っちゃったんだね」
仕事から帰ってきた葵桜秋を玄関で迎えいれる。
私の前に映る葵桜秋の髪は、今の私と違う髪型だった。
「切ったよ。
ちょっと気分転換したかったんだ」
葵桜秋はそう言いながら家の中に入って二階へとあがった。
葵桜秋の後ろをついてあがりながら、私は言葉を続ける。
「今日ね、怜皇さんに言って実家に泊りに来ちゃった」
作り笑いを必死に浮かべながら告げる言葉。
だけど……本当はいつものように気がついて欲しい。
そんなことを思いながら。
晩御飯を食べて両親と団らんした後、
二階に上がると葵桜秋は私の布団を敷いてくれる。
その後は、フェイスケアをしていた葵桜秋の顔を
ゆっくりと温めた手でマッサージをしていく。
こんなゆったりとした楽しい夜は久しぶり。
「ねぇ、咲空良。
なんかあった?」
無言でマッサージをしていた私に葵桜秋が呟く。
「ねぇ、葵桜秋。
どうしたらいいの?
私……あの人のことが好きになれないよ。
ずっと使ってた私の大切な私物。
何時までたっても届かないからあの人に聞いたら電話で一言。
冷たい声で処分したって言うの。
携帯はあっても充電できない。
屋敷の中は、使用人に常に監視されてるし
出掛けることも、常にハイヤーの監視付。
私、何のために
あの家に行かないといけないの?」
何時の間にか、涙が溢れて声が震える。
「咲空良、泣かなくていいよ。
咲空良には私が居る。
助けてあげるよ。
私が……大丈夫……。
咲空良が怖がることは何もないから。
咲空良の傍には私が居るよ。
ずっと小さい時から、
咲空良を助けてあげたでしょ」