【B】星のない夜 ~戻らない恋~


学生時代みたいに、これで私と葵桜秋は、
また知る人がコツを持って見極めないと区別がつかない
そっくりな姿に仕上がった。




「咲空良、私、会社の近くにマンスリーマンション借りたの。
 仕事が遅くなったときとか、泊まれるでしょ。

 だから入れ替わってる時、
 そのマンションを咲空良が使っていいわよ。

 入れ替わるのは瑠璃垣の屋敷の外が限定。
 私の仕事のスケジュールも考えてね。

 マンスリーマンションでも、咲空良が好きなことを出来る空間があれば
 貴女も落ち着くことが出来るでしょ」



そう言うと鞄の中から葵桜秋は一本の鍵を取り出した。

その鍵の合鍵を作ると私に一本手渡してくれる。

葵桜秋と二人、肩を並べて歩くとあの頃みたいに、
擦れ違う人たちの視線が集まる。


そんな感覚もずいぶん昔みたいな気がした。



マンスリーに戻る途中、立ち寄った場所で、
葵桜秋が仕事時に使うウィッグを買い揃える。




ウェーブがかかった、ゆるやかな髪型。


そこにエクステを少し付け足して長めに作られたウィッグをつけると、
葵桜秋の雰囲気は一気に変わった。




「咲空良、貴女も何か買って。

 私が入れ替わってる時、もしどこかですれ違うことになっても
 同じ髪型同じ顔立ち同じスタイルだとまずいもの」




箱に詰められた沢山のウィッグ。


自分の髪型をまとめて慣れない手つきで、
髪型をあわせてみる。


手に取ったウイッグは、ショートヘア。


実際の髪の毛をそこまで短くする勇気はないけど、
たまにする冒険ならいいかも。



悪戯グッズを一通り買い揃えた私は、
葵桜秋のマンスリーマンションの場所を
確認してハイヤーが待つ場所へと向かった。




マンションの中、最初の悪戯を企む私たち姉妹。




「咲空良は今日はゆっくり過ごしたらいいよ」



そう言いながらPCで、
クリスタルホテルのシングルルームを予約する。



「さてっと、予約はバッチリ。
 後は、咲空良の仕事かな。

 アンタのフィアンセに連絡する方法ないの?
 
 幾ら私でも、いきなり瑠璃垣の家まで行って
 入れ替わるって言うのはマズイわけよ。
 明日は私もお仕事あるからさ」


サクサクっとしたテンポで告げられた悪巧み。



「でっ……電話番号……あるけど、秘書の東堂さんのだし……」


「あぁ、腰巾着の東堂ね。
 んじゃ、それでいいわ。

 フィアンセの電話番号すら知らないってどうなの?
 咲空良……」


ズケズケとリードするように
言葉を投げかけてくる葵桜秋。


「あの……でっ、電話もないの。
 私の携帯は充電切れでアダプターないし。

 怜皇さんも、東堂さんも知らないから
 出てくれるかどうかわかんないし」

「どうなのよ。それっ」

「瑠璃垣に居た時は、何時も知可子さんが
 電話機持ってきてくれたから」 

 
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