【B】星のない夜 ~戻らない恋~
何気ない会話のはずなのに何故か呆れるように
溜息を吐き出していく葵桜秋の息遣いが、
私には責められているように思えた。
「そうだ……ハイヤー。
駅前に真っ黒な大きな車が止まってるかもしれない。
瑠璃垣のハイヤーなの。
いつも私の近くに待機してるから。
私を装って、近くを通りかかっただけで
声をかけてくれるかも知れない。
その車から電話をして怜皇さんに連絡つけて。
私はこのウィッグを被って、
電車でクルスタルホテルに行く。
葵桜秋が予約してくれたホテルに。
だから後は……朝、葵桜秋が部屋を訪ねてきてくれたら……」
イケないことをしてるって言うのは
心片隅、理解しているつもりなのに
何故かドキドキしてた。
その後、着ていた服をお互いに交換して
その部屋を後にする。
「行ってらっしゃい」
マンションから送り出す
私の姿をした葵桜秋。
悪戯の始まり……。
この些細な始まりが全て綿密に計画されたものであったなんて
知る由もないほど、私は愚かだった……。