【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「もしもし」
暫くすると聞きなれたその声が耳を擽った。
「あのっ……咲空良です」
「あぁ、東堂から聞いて知っている。
電話までして何の用だと言っている」
電話の向こうから聞こえる
怜皇様の口調に、思わずびっくりする。
上手くいってない?
「連日、好きなことをさせてくださって有難うございます。
もし宜しければ、屋敷の外で怜皇様とゆっくり過ごしたいのですが
わがままですか?
瑠璃垣のお屋敷は私にはまだ息が詰まるばかりで……」
申し訳なさそうに声色を変えて告げる。
「クリスタルホテルに行っておけ。
仕事が終わり次第向かう。
ホテルには伝えておく。
用件はそれだけか?」
「はい……」
小さく呟くと受話器はプツリと音を立てて切れた。
受話器を握りしめたまま茫然とする私を気遣うように、
ハイヤーの運転手が話しかける。
「怜皇さまとのお約束は出来ましたか?」
遠慮気に問う言葉に現実感を取り戻した私は
小さく頷いた。
運転手は私の手から受話器を抜き取るように
受け取ると所定の位置に片づけて車のエンジンをかけた。
「どちらにお連れしましょうか?」
「クッ、クリスタルホテルへ」
先ほどまでの会話を思い出して、
言葉が詰まりそうな感覚を覚えながら目的地を告げた。
どうしてこんなに動揺してるの?
クリスタルホテルは、
瑠璃垣の経営するホテル。
そこを指名されるのは、
先に推測していたじゃない。
それを見越して私はシングルを抑えて、
咲空良にもその部屋に行くように伝えてる。
何もかも計画通りなのに、
どうして、こんなにも体が震えを起こすの?
柄にもなく緊張を続ける体は、
強張っているのが感じ取れる。