【B】星のない夜 ~戻らない恋~
当初は乱暴に壊してしまいたいと思っていた愛撫を
優しいものへと変えたのは、
俺自身との出逢いを覚えていた彼女に、少し寄り添いたいと思えたから。
彼女の名を何度も紡ぎながら、
彼女は俺の中で花を咲かせ続けた。
翌朝、彼女に見送られて俺はホテルを後にする。
その日の仕事の合間、午前中から午後の会議の間に
携帯ショップへと立ち寄り、彼女に似合いそうな携帯を契約する。
その電話帳に俺自身の連絡先を登録して、
そのまま次の仕事を終わらせる。
車内から木下へと連絡をかけて、何度か咲空良に問われていた
持ち物の所在を聞きただす。
彼女の荷物は、養母により処分するように告げられたものの
木下は捨てることが出来ずに、目の届かないところに隠しているということだった。
その荷物をそのまま俺自身が預かることを告げる。
その後も4日ほど、出張が入り帰宅できない日々が続いたが、
邸に毎晩電話をかけて、彼女と言葉を交わした。
出張先から帰宅出来たその日、
そのまま邸へと帰宅することが出来た。
帰宅途中に、次の予定が入ってしまって
家でゆっくりとすることは出来なくなってしまったが、
ようやくこのプレゼントを贈れる時間がとれそうだ。
「お帰りなさい。
怜皇さん」
「部屋に行こう」
邸に帰ると、彼女を中心にお出迎えの列が俺を招き入れる。
彼女の肩に手をそえて、
エスコートするように階段をあがって、俺の部屋のドアを開ける。
そのまま寝室に続く扉を開けると、
彼女をそっと抱きしめた。
彼女の温もりを感じた後、
持っていた紙袋を差し出す。
「君が気にいるといいが」
「可愛い……」
「渡すのが遅くなった。
好きに使うといい。
一番最初に俺の電話番号とメールがいれてある」
嬉しそうに微笑んだ彼女が可愛くて、
俺が選んだ最初の贈り物を嬉しそうに握りしめた彼女を見て
俺自身の心が温かくなるのを感じた。
「すまないが、仕事がまだ残ってる。
社に戻らなければいけない。
何かあれば連絡しろ」
そのまま俺は寝室を後にし階下へと向かった。
この屋敷の中に居て、
心が温かくなることが今まであっただろうか?
そんなことを思いながら、
再び、夜の街へと仕事に戻って行った。