【B】星のない夜 ~戻らない恋~
その夜から、毎日のように
怜皇さんから私宛に電話が入るようになる。
葵桜秋によって開かれた夜の扉。
その一夜でこんなにも環境が変わり始めるものなのだと
しみじみ感していた。
それから数日間、怜皇さんが屋敷に帰れない日は続いた。
それでも、毎夜かかってくる電話もあって
あの頃のように陰口を言われることはない。
堂々と、屋敷の中を歩くことも出来るし
毎日のレッスンにも随分集中出来るようになった。
「今日は帰れる」
怜皇さんから電話があったその日、
緊張の中、帰りを待つ私。
帰宅した怜皇さんは私に向かって、
少し優しいトーンの声で「ただいま」と告げた。
それだげで今までの時間からして
びっくりした時間。
「お帰りなさい。
怜皇さん」
「部屋に行こう」
そう言って、私の肩に手を添えて
エスコートするように階段を上がっていく怜皇さん。
怜皇さんのペースについていくのが必死な私。
ドキドキする時間。
寝室へと入った怜皇さんは、
戸惑う私を、ギュっと抱き寄せた。
何かを出来るわけでもなく、
目をつぶってその時間をやり過ごす。
暫くして解放された私の前に、
怜皇さんは一つの紙袋をさしだす。
「君が気にいるといいが」
受け取った紙袋の中には
最新機種の携帯電話。
ゆっくりと箱を取り出して開封すると、
淡いピンク色の端末が姿を見せる。
「可愛い……」
「渡すのが遅くなった。
好きに使うといい。
一番最初に俺の電話番号とメールがいれてある」
携帯電話を握りしめたまま、
立ち尽くしていると、
怜皇さんはゆっくりと立ち上がって
再び、私を抱き寄せた。
「すまないが、仕事がまだ残ってる。
社に戻らなければいけない。
何かあれば連絡しろ」
残念そうに告げる、怜皇さんの言葉に
心の奥で安堵する私を感じながら
会社に戻る、怜皇さんをゆっくりと見送った。
帰宅したフィアンセは、
あまりにも変わりすぎて……。
私はまだフィアンセの何も
知ろうとしていなかったことに
ようやく気が付いた。