【B】星のない夜 ~戻らない恋~

20.パ-トナー - 葵桜秋 -






会社の中での私はありのままの自分。


近衛葵桜秋。


そのはずなのに私の中で、
葵桜秋と咲空良が少しずつ同化していく。




怜皇様に抱かれたのは二度。


一度目は葵桜秋として共に過ごした夜。




そして二度目は、双子の姉。
咲空良と入れ替わって咲空良として抱かれた夜。




今も彼の指先が肌を辿る感触を
私の体は覚えてる。




「おはよう、葵桜秋」


出社した私に後ろから声をかけてきたのは
同期の奈都。



「おはよう、奈都」

「何?
 葵桜秋、また髪型変えたの?」

「えぇ、気分転換」

「いきなり髪型変えるなんて、
 何かあったの?」

「何かって?」

「失恋とか?」



失恋って縁起でもない。



「失恋なんてしてないって。

 むしろ逆。
 ちょっといいことあったのよ」

「何?
 聞かせなさいよ。

 幸せな出来事だったら、
 ちゃんと話して私にも福をわけてよ。

 こっちは、彼氏の二股が見つかって
 しょげてるところなんだから」



思わぬ、奈都の言葉に私自身もチクリとする。



二股?



私たちも……そんな関係?


それでも……どちらも私だから……。



「こらこらっ。

 二人とも、早くしないと遅れるわよ。

 今日はお局様が機嫌悪そうだから、
 香水の匂いとかキツすぎないかちゃんと調節しなさいよ」


なんて二人の間をすり抜けるように
かけていく、桜子先輩。




慌てて先輩を追いかけていく。



香水がどうのこうのなんて、大丈夫だと思いたいけど、
自分の香りに慣れ過ぎた嗅覚ではすでにわかんないって。



なんて思いながら、
奈都と二人職場へと駆け込んだ。



お局様にギロリと睨まれつつも
その後は何事もなく
いつものように仕事が始まる。 


私の何気ない仕事が変化を見せたのは、
お昼前。



「近衛さん、瑠璃の君がお呼びよ」



怜皇様信者のお局様が、
機嫌が悪そうな声で、デスクまで迎えに来る。



「はいっ。
 参ります」



デスクを離れる前にPCのロックだけして、IDを抜き取ると
お局様について、ガラスの向こうの部屋へと顔を出した。


「失礼いたします」


室内に入ると部屋に居たのは瑠璃の君一人。



「君に私のプロジェクトに入って貰おうと思う」


突然告げられた言葉に胸が弾む。


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