【B】星のない夜 ~戻らない恋~
「今日は調子どうなの?」
「今は平気。
だけどご飯食べても、戻しちゃうことが多いわ。
そうそう、睦樹と言ってたんだけど……
私の友人代表のスピーチ、咲空良に頼めないかな?
睦樹は、怜皇さんに頼むって言ってたから。
私たちのスピーチしてくれる二人が、
婚約してる二人だって言うのもびっくりだけどね」
スピーチ?
突然の申し出に驚いて思わす聞き返すも、
心【しずか】は譲る気配もなく、心【しずか】の友人代表として
スピーチすることになった。
怜皇さんに電話をして、その旨を告げると
怜皇さんもまた、睦樹さんから頼まれたと教えてくれた。
二人して出席するようになった結婚式と披露宴。
怜皇さんは、結婚式の前日まで忙しくて
殆どあうことは出来なくて、当日緊張のまま朝を迎えた。
早朝から、知可子さんが手配してくれた美容師さんが
髪を結い上げてくれる。
メイクを済ませた後、私は振袖へと袖を通す。
肌襦袢・長襦袢・振袖と順番に着つけた後は、
知可子さんが、用意した袋帯と帯揚げ・帯締めを着付けてくれる。
蝶に扇に文庫を重ねたような華やかな帯結び。
薄桃の着物に桃色系の袋帯を結んでいた最初と違って、
可愛らしさと言うよりも、全体的に引き締めてくれた感覚が強く出ている
銀糸が織り込まれたクリーム系の袋帯。
「知可子さん、初めてみる帯結びです」
結び終えた知可子さんが、帯の様子を鏡に映し出してくれた時
告げると知可子さんは教えてくれた。
「祝い重【いわいがさね】と言う結び方です。
咲空良さま、本日は咲空良さまにとっても、瑠璃垣の婚約者として初めて
公の場に立たれる日なので」
知可子さんの言葉が嬉しいはずの日に、影を落とす。
「精々、瑠璃の君に恥をかかさないようにね」
更に追い打ちをかける花楓さんの言葉。
一階に降りた私は、怜皇さんの仕度が整うのを待つ。
昨夜も、大切な用事があって遅くまで帰宅されなかった怜皇さん。
そんな怜皇さんが階段を降りて近づいてくるのを感じながら、
ドキドキしてる私。
私の姿、怜皇さんはどんなふうに感じてくれるかな?
怜皇さんの隣に立つのに相応しくなってるかな?
優しいと感じられる怜皇さんを知ってから、
私は怜皇さんに認められたいと、好かれたいと思っている自分を感じる。
そんな私自身をやましいとさえ、感じるこの頃。
怜皇さんが目の前に立った時、勇気を出して声をかける。
「知可子さんが帯を結んでくださいました。
振袖を自分で着るのは簡単ですが、
帯結びは種類が限られてしまうので、お願いしたんです」
怜皇さんは、じっと視線を向けて上から下までを見つめると
「行くぞ」と先に車の方に歩き出してしまった。
慌てて追いかける私。
車内でも会話らしい会話はなくて、沈黙のまま結婚式会場へと到着する。
私をエスコートして車を降りる怜皇さん。
途端に私たちの周辺は怜皇さんの知り合いたちに
埋め尽くされてしまう。
「瑠璃垣、久しぶりだな」
「怜皇さん、ご無沙汰していますわ」
何人もの人たちが、ひっきりなしに怜皇さんに話かけてきて
私の居場所がないくらい。
集まった人たちからの鋭い視線が痛い。