【B】星のない夜 ~戻らない恋~

*


怜皇、今日……生まれたよ。
男の子だ。

予定より早くなって体重も少し軽めだが、
父親になったよ。

心【しずか】と名前を決めたら、また連絡するよ。
時間見つけて、俺たちの息子にあってやってくれ。



*
 



睦樹からのメール。




『怜皇さん、今日、睦樹さんと心【しずか】が
 お父さんとお母さんになりました。

 予定日より早くて、2200gしかなかったみたいで
 今は保育器にいるみたいだけど、早く逢えるようになったらいいよね。

 出産って凄く大変そうだった。

 でも命が生まれる瞬間って凄く感動するね。
 凄くびっくりしたけど。

 怜皇さんも今度、一緒にあいに行きましょうね』



そして留守番電話には、同じ内容を告げる咲空良の声。






その夜、俺は仕事の後に病院へと向かう。



心【しずか】さんの病室を訪ねると、
咲空良は帰宅した後だった。




「怜皇、来てくれたんだ。
 心【しずか】、少し紀天【あきたか】のところに行ってくるよ」



何時の間にか、命名までしていた睦樹たち夫妻。
新生児室と廊下を遮る窓から中を見つめ続ける睦樹。



看護婦さんが俺たちの存在に気がついて近づいてくる。





「紀天君、順調ですよ。安心してくださいね。
 少し逢っていかれますか?」

「はい」




睦樹と共に中の部屋に入る。



生まれたばかりの赤ちゃんたちが、
並んだ部屋。


どの赤ん坊も、紅葉のような小さな手をして
幸せそうな笑顔で眠っている。




こんな時期……俺にもあったんだろうか?





普段では考えてもしないことを考えてしまうものだと
俺自身の想いに戸惑う。




保育器の前で、睦樹がじっと眠っている子供も見ている。
廣瀬紀天と書かれたネームプレート。




その中には沢山の機械に繋げられた赤ちゃんが眠っていた。



嬉しそうに我が子を見つめる睦樹の眼差しを見守りながらも、
俺自身、将来子供が出来る将来ビジョンは描けずにいた。



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