【B】星のない夜 ~戻らない恋~
27.親友の願い 婚約者の願い -怜皇-
睦樹と心【しずか】ちゃんの最初の子供が誕生した頃、
俺はようやく走り回ってたプロジェクトの一つが
軌道にのりそうな状況になってきていた。
相変わらず慌ただしい日々の中、
家には帰れない日々が続いてた。
少しでも早く、少しでも大きな形で
一族に成果を示したい。
誰にも一族の後継者として任じられても、
反発をえない絶対の実力を示しておきたい。
幼い頃からずっと『後継者としての器』としての
言葉に捕らわれ続けてきたから。
兄の怜皇の幻影に怯え続けなくてもいいように。
「怜皇、今回は頑張ったな」
親族会議の中で父に褒められ、父の隣に座る会長も
笑顔を見せている。
叔父や叔母からはお世辞が飛び交い養母からは鋭い視線が突き刺さる。
そんな状態をやり過ごしながら、会議と言う名の食事会を終えて
俺は両親の家を後にした。
「怜皇様、お疲れ様でした。
先ほど、睦樹様よりご連絡がありました」
東堂の言葉に自分自身の携帯を手にする。
不在着信6件。
そのどれもが睦樹からのもので最後に未読メールを確認する。
*
何度も連絡してごめん。
怜皇、少し時間を作って貰えないか?
君に力を借りたい。
何時になっても構わないので連絡待ってます
睦樹
*
そう記された睦樹からのメッセージ。
プライベートの携帯だけでなくメールだけでなく、
東堂にまで連絡をしてまで、必死に俺と連絡を取ろうとした
いつもと違う親友の行動。
緊急事態?
「東堂、今日はもう帰っていい。
俺は睦樹と合流して飲みに行くよ」
「かしこまりました。
それでは私はこれで」
一礼して俺の前から離れていく東堂を見送りながら、
着信履歴から睦樹に電話をかける。
「もしもし」
電話はワンコールが終わる前に繋がり睦樹の声が聞こえる。
「睦樹、電話遅くなって悪かったな。
食事会だったんだ」
そう言いながら、電話の向こう側から踏切の音が聞こえる。
時間は22時を回っているのに、アイツはまだ外にいるのか……。
心【しずか】ちゃんと結婚してからアイツは夜遊びをすることも減っていたのに。