【B】星のない夜 ~戻らない恋~
28.親友の病気 - 咲空良 -
紀天が生まれてからも、私は毎日のように午後から、
心【しずか】の家へと出掛け続ける。
瑠璃垣の家が嫌やわけじゃないけど、
やっぱり怜皇さんが居ない家は居心地が悪い。
瑠璃垣の家で生活を初めて一年が過ぎた。
紀天が生まれて一週間と少し。
今も婚約者と言う肩書はあっても、
結婚などと言う話まで進展しているわけではなく
私と怜皇さんの関係も進展なし。
電話は定期的にかかってくるし、
私もかけるけれど、それ以上でも以下でもない。
そんな瑠璃垣からのストレスを緩和してくれるのが、
心【しずか】の存在であり、無邪気な紀天くんの存在だった。
ぷにぷにしたお手てと握手。
頬を指先でツンツンして癒されて。
心【しずか】がいろいろと手伝わせてくれるから、
最初は手こずってたおむつ交換も
今じゃ、お母さん顔負けで出来るようになった。
ベビーカーに乗せて、ゆっくりと近所を散策したり、
買い物に出掛けたり。
まだ小さな天使の存在が、こんなにも私の生活に
癒しをもたらしてくれるなんて正直思ってもなかった。
妹の葵桜秋は相変わらずで、
ことあるごとに、外で怜皇さんと私として会うために
あれやこれやと画策してくる。
葵桜秋との電話のストレス。
当初は、葵桜秋に感謝した一瞬も
今では苦痛となる時間でしかない。
それを癒してくれるのは、紛れもなく紀天の笑顔で、
私に遠慮することなく紀天と接する時間をくれる
心【しずか】と睦樹さんのおかげだった。
そんな心【しずか】たち家族の
穏やかな時間は長くは続かなかった。
産後検診を兼ねて訪れた病院で不正出血を打ち明け、
検査を幾つも受けた心【しずか】。
検査を受けた三日後の診察の日、
いつものように私は紀天を抱いて心の病院に付き添った。
今にも泣き出しそうな紀天を抱きしめたまま、
私は病室でお医者様の話を心【しずか】と共に聞く。
「検査の結果、再発していることがわかりました」
重苦しい口調で告げられたお医者様の言葉。
再発?
何?
沈黙を破るように泣き始めてしまった紀天を
必死にあやすものの、紀天は一向に泣きやみそうにない。
そんな私に心【しずか】は両手で紀天を抱き寄せると、
トントンと背中をリズムよく叩きながら、
あっと言う間に泣きやませる。
「後、どれくらい私はこの子といられますか?」
心【しずか】は、覚悟を決めたように言葉を続ける。
「それは更に検査をしないことには、一概には言えません。
明日の朝、入院の手続きをしてください」
心【しずか】の主治医はそう言うと、
デスクのパソコンに集中して、次の作業を始めた。