【B】星のない夜 ~戻らない恋~

「咲空良の笑顔まで失いたくないもの。

 あの時、私が咲空良に話したら、
 咲空良は私に味方してくれた?

 一緒に紀天産むまで頑張ろうって
 笑いながら言ってくれなかったでしょう?」



心【しずか】の言葉に、
頷かざるをえない自分がいる。


確かに……私は、先にそれを知ってしまうと、
どうしていいかわからなくて、
私がパニックになってたかも知れない。


今も……病人の心【しずか】に私が心配されてる。




「多分、子宮を全部取ることになるわ。
 次は望めないもの。

 でも神様は紀天をくれたから」


心【しずか】の言葉に私は言葉に出来ないまま、
ただ頷くことしか出来なかった。



その夜、私は実家の父に連絡をして、
優秀なお医者様を教えて欲しいと頼むものの、
父の言葉は怜皇さんに話してみなさいと言うものだった。


父の言葉にすがる思いで、携帯電話を握りしめて
怜皇さんの携帯に電話をかける。

こんなにも彼の声が聞きたいと思ったのも、
彼に助けて欲しいと思ったのも初めて。


コール音が鳴り響く時間が、今日は何時もよりもやけに長くて
いつもの待ち時間と違った時間。


「もしもし」

待ち焦がれた彼の低い声が聞こえる。

どうやって切り出していいのかわからなくて、
とりあえずいつものように、当たり障りのない会話を切り出す。


「お疲れ様です。

 怜皇さん体は壊してないですか?
 無理せずに休んでくださいね」

「あぁ、有難う」


こんなことしてる場合じゃないのに……
ちゃんと自分で思ってる、自分でやりたいこと、感じてることを
私の言葉で伝えるって決めたのに。


「今、お電話大丈夫ですか?」

「15分程度で構わないなら」


震えそうになる声を必死に我慢しながら、
覚悟を決めて話を話を切り出す。


「心【しずか】が子宮がんを告知されました。
 しかも私も知らなかったのに、大学の時に一度発症していて
 再発だったんです。
 実家の父にも優秀なお医者様をしらないか確認したんですけど、
 父に言われました。

 『私に聞くより、怜皇さんに聞いてみなさいって。
  怜皇さんの今回の仕事のセンター長なら、力になってくださるのではないか』って。

 私、怜皇さんのお仕事のことも何も知らなくて、婚約者らしいことも何も出来なくて
 なのに……こんな時だけ甘えるのは失礼だって思うのに……、
 怜皇さんにしか頼れなくて……」



淡々と冷静に自分の思いを説明するはずで臨んだのに、
結果は散々で、会話の途中から涙が止まらなくなって、
声が震えてしまう。

鼻水をすすりながら……何とか、自分の気持ちをさらけ出すことが出来た状態。

そんな私が話し終えるのを、邪険にすることなく
彼は時間を割いて聞き届けてくれた。


それは彼の優しさなのだと今は感じられる。



「心配しなくていい。
 睦樹からも頼まれた。すでに手配はしてある。
 気にしなくていい」


えっ……それだけ?

睦樹さんに頼まれたから手配してる?
睦樹さんだから動いたの?

気にしなくていいって……気にするわよ。
心【しずか】は私の大切な友達なんだから。



「有難うございます」


怒りと同時に、寂しさと……
やっぱり優しさを感じられても、私が本当に欲しい言葉を得られない
そんな不服が募ってしまう。

そんな思いを飲み込んで、何とか告げられたお礼の言葉。


「仕事に戻る」

「はいっ……。
 お仕事頑張ってください」

「あぁ、お休み」

「お休みなさい」


気まずさが僅かに残る中、電話は切れていく。


怜皇さんのことが一つ知ることが出来たと喜ぶ反面、
苦手な貴方を思いだして、近づけなくなる。

本当は優しくただ抱きしめて欲しいだけなのに。
ありのままの私でいいのだと、そう囁いて欲しいだけなのに。

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