【B】星のない夜 ~戻らない恋~
近衛を名乗る私も、元を辿ればあの人が毛嫌いする
都城の一族だと言うこと。
それを伏せたまま、近衛人間として堂々と怜皇様に近づこう。
社長夫人と言う後ろ盾を武器に、
あの人を欺きながら、懐へと飛び込む覚悟。
それで……怜皇様を手に入れられるなら、
私は悪魔に魂を売ってもいい。
三月下旬、突然咲空良が私のマンションへと姿を見せた。
「葵桜秋」
顔を見た途端に泣き崩れた咲空良。
昔から何かがある度に、
泣き崩れる咲空良を宥めるのは私の役割。
肩を震わす咲空良をそっと抱きかかえて、
奥のソファーへと座らせる。
「何?
咲空良、どうかしたの?」
昔と変わらない言葉。
何度か咲空良の髪を撫でて落ち着かせると、
昔と同じように気を許して心の中の想いを吐き出していく。
「ねぇ、葵桜秋……どうしよう、心【しずか】が入院しちゃった……」
心【しずか】が入院?
咲空良が告げたその一言は、
私にとっては願ってもない利用価値。
そんなことすら知る由もない咲空良。
馬鹿なヤツ。
弱ってる咲空良を操るなんて簡単すぎる。
でも入院って言っても何?
病名は?
「えっ?
心【しずか】が入院って病気は?
紀天君が誕生して間もないのに」
思ってもみない言葉は付け足してみる。
それだけで咲空良を操るには十分。
これで単純な咲空良は全て話し出す。
「うん……紀天、生まれてまだ8ヶ月くらいなのに。
葵桜秋、覚えてる?
二回生の時に、私の代わりに
ゼミの合宿行って貰ったでしょ?
あの時、心【しずか】参加してなかったよね」
咲空良の言葉に、昔の記憶を遡っていく。
そう、確か……心【しずか】が参加出来なくなったから
『私、親しい人がいない。
葵桜秋、お願い。
今月、欲しい化粧品私が買うから
行って来て』
咲空良は私のかわりに自宅で私のレポートを仕上げてくれて、
私はゼミの合宿を楽しんだ。
その日の夜も怜皇さまたちと再会してる。
ゼミの先輩が、呼び寄せて……。
その時の怜皇さまと逢ってるのも私。
咲空良は……怜皇さまがそこに居た事実も知らない。
思わず笑みが零れ落ちそうになるものの、
必死に我慢して、さらに咲空良に切り返す。
「うん。
覚えてるわよ」
あと少し……。