泣いていたのは、僕だった。~零~
「た、頼む!許してくれ!!」
悪人は追い詰められたとき、必ずこの台詞を吐く。
僕は思う。
どうしてそこまでして助かりたいんだろう?
手元の資料に書かれた、目の前の男の悪行。
強盗、強姦、殺人………。
酷い生き方だ。
「ねぇ、そんなに生きたいの?」
「あ、ああ。生きたい、生きたい!」
「そっかぁ。でも、生きる価値ないと思うな。」
愛用のハンドガンを懐から出して、男の額に押しつける。
「ばいばい―――」
「はい、ストップ!」
「――!?」
突然腕を蹴り上げられ、手にしていた銃が床に落ちた。
僕の腕を蹴り上げたのは、同い年ぐらいの青年。
「何の真似かな?」
「俺のターゲットもこのおじさんなんだ。別に殺すことないだろ?捕まえりゃ良いだけの話だよ。」
青年はにっこり笑い、ターゲットへ振り返った。
「つーわけで、ちょっとだけ寝ててな。」
青年の手が男の首に入った。
途端に男は意識を失った。
「ふー。任務完了。よいしょっと」
この細い体のどこにそんな力があるのか?
青年は気絶している男を肩に担いだ。
「君も掃除屋?」
「そうだよ。お前、古林 真司だろ?」
「………何で知ってるのかな?」
「だって有名だもん。とんでもないルーキーが入ったって。あ、ヤバい。次の仕事間に合わない。じゃ、またな!」
青年は慌ただしく去っていった。
………何だったんだ、一体。