泣いていたのは、僕だった。~零~
翌朝、部屋を覗くと翔一はすでに起き上がっていた。
「おはよう。」
彼はそっぽを向いて返答しない。
「君が寝てる間、包帯換えさせてもらったから。」
「…………」
「安心してよ。変なことはしてないから。」
何の反応も示さない彼に僕は、ため息。
やれやれ……
心を開けるってのは難しいね。
「何かほしいものある?」
「……………」
何を言っても無駄か……。
会話を諦めて、部屋を出ようとしたその背に、彼は呟いた。
「………悪かった。」
「え?」
「………昨日、悪かった。その口の怪我、俺がやったんだろ?」
口の端を手で触れて、僕は笑った。
「別に気にするほどじゃないよ。」
「………でも」
「ねぇ、ここには君を傷つけるものなんてないよ。」
「…………」
「もう傷つかなくていいんだよ。」
翔一は僕を凝視して、やがて視線を床に落とし、そっかと一言呟いた。
「何かほしいものある?」
再度質問を投げかけると、今度は返答が戻ってきた。
「腹減った」
「りょーかい。買ってくるから、大人しく待っててね。」
僕は内心浮かれたようにコンビニへ足を伸ばした。