泣いていたのは、僕だった。~零~
「はい。」
買ってきた弁当を手渡す。
温めてもらったから、まだ温かい。
「何これ?」
「オムライス。一番人気なんだって。」
「ふーん。初めて食う。」
翔一は興味津々と言った様子で、一口食べた。
「どう?」
「――旨い!」
その後は夢中になって食べ始めた。
相当お腹が空いていたんだろう。
でも彼は途中で手を止めた。
「なぁ、お前は食わないのか?」
「僕?僕はいいんだ。これがあるから。」
サプリメントの入ったケースを差し出すと、翔一は眉を寄せた。
「それ旨いのか?」
「どうだろう?僕は何を食べても同じに感じるんだ。ゴムを食べてるみたいに。だからこれで充分なんだよ。」
「ふーん。」
興味なさげに呟いた翔一は、少し思案した後、立ち上がり僕に近づいてきた。
「どうしたの?水?それなら―――んぐっ」
突然口に何かを押し込められ、僕は瞠目。
二、三回のまばたきの後、翔一が僕の口にスプーンを突っ込んだのだと理解した。
口の中にはオムライスが入れられている。
「食ってみろよ。」
翔一がスプーンを引き抜いたため、僕は口を動かす。
口の中で広がる風味は、ゴムのような無機質なものじゃなかった。
何年ぶりにそう感じただろう。
味覚というものが何年ぶりかに働いた。
「………美味しい」
「だろ?」
あ、笑った。
翔一は実に嬉しそうに笑った。
僕には少し眩しかった。