泣いていたのは、僕だった。~零~
あの日警察に一本の連絡が入った。
『今、母を殺しました。僕を捕まえてください。』
感情の一切ない声だったそうだ。
その連絡が入ったとき、俺はちょうど巡回していて、外に出ていた。
現場が近くだったこともあり、一足先に連絡があった場所へ向かった。
住宅街にあった現場。
たくさん家が並んでいるというのに、周辺は静かだった。
俺は家のドアにそっと手をかけた。
ドアは簡単に開き、慎重に中へと侵入する。
物音一つしない家の中。
一番手前のドアに手をかけ、勢いよく開いた。
「警察だ!」
叫んだ俺の声に、中に佇んでいた少年が振り返った。
その光景は今でも覚えている。
倒れている女から流れるおびただしい量の血。
その血溜まりに佇む少年。
少年の手に握られているナイフからは、未だ血が一滴一滴流れていた。
「お前がやったのか?」
「………うん。殺しちゃった。」
なんて抑揚のない声音だろう。
「なんでだ?」
「約束したから。母さんのためなら何でもするって。大好きだったから。」
正直、俺には理解できなかった。
大好きだったのなら、何故殺す?
俺には理解しがたい光景だった。