泣いていたのは、僕だった。~零~
「なぁ、ここ前に誰か住んでた?」
俺が問うと答えは決まって、
「ご想像にお任せします。」
だ。
手を止めずに淡々と答える様子からは、それ以上は聞くなと拒絶されているように感じる。
だから訊かないし、無理して訊く必要もない。
あえてそれ以上は踏み込まない。
「出来ましたよ。」
ふわっとした卵に赤いケチャップが彩られたオムライスが運ばれてきた。
「これこれ。いただきます」
一口食えば、口の中で卵の食感が広がる。
「やっぱ旨いな。」
「よかったです。」
「おめーは食わねーのか?」
「僕はいいです。さすがにオムライスは飽きました。」
肩を竦めて、創は隣に腰を下ろした。
「飽きませんか?そんなに食べて」
「別に飽きねーけど。」
創はまた一笑した。
「一つ………訊いてもいいですか?」
「なんだよ?」
「どうしてこの家に通うんです?」
横目で見た創と一瞬目が合った。
オムライスを運ぶ手を休めることなく、俺は口を開いた。