4月の朝に【短編】
魚は泳ぐ
「君は、お魚はすき?」
馬鹿みたいに、ふにゃりと笑って
ずれ落ちそうな眼鏡のまま彼は振り返った。
「……まあ、それなりに」
この先生は頭が弱いんじゃなかろうか。
学校の池で、釣り糸を垂らしている国語教師を見てそう思う。
「そう。僕は大っ嫌いだなあ。
気にくわないから、池の中のやつ全部釣っちゃおうって思って」
あはは、と無邪気に笑うこいつはたぶん精神が病んでいる。
「先生」
「なんだい?」
「お魚と私、どっちが大嫌いですか?」
「……聞くまでもないだろう?」
にっこり笑って
彼は手招きをした。
私の耳元にギリギリまで唇を近付けて、彼の低音が耳たぶを打つ。
「……君に、決まってるだろ?」
……このオトコは、今日がなんの日かなんて知らないんだろう。
でも、今日が。……エイプリルフールで良かった。