音匣マリア
「れ…ん?」

「……話、聞いて。頼むから……」


蓮はすがるような目を私に向けてくる。


「……もう、話すことなんてなくなっちゃったね……」



蓮に逢えば泣きそうになってしまうから、できれば逢いたくなかったよ。


蓮の口から辛い言葉を告げられるのが怖くて仕方ないのに。


蓮まで真優さんと同じことを言うの?


『自分に必要なのは真優さんだ』と。






蓮に腕を掴まれて車に乗せられた。


車高がある車に乗るのを、いつも通りに蓮が助けてくれる。


蓮が何を考えているのか分からないよ。


私達、別れるしかないのにこんなに優しくしないでよ。

……だからもう、何も言わないでほしいと願っていたのに。



「昨日、マンションに来たんだよな?」


蓮が確認するようにそれを聞いてきた。


「……行ったよ……。真優さんと、一緒だったんだ?昨日……」




そんなに真優さんが大事なの?


だったらもう関わらないでよ……。



「違う!! 一緒にいたのはあの女じゃない。なんで……」


どうしてそんな言い訳をするの?


真優さんじゃなくて、他の女の人と、そういうことをしてたって嘘の言い訳したいの?


……だけど、蓮がそういうことをしてたのは紛れもない事実なんだよね?



「……でも、他の女の人を抱いてたのは…見間違いじゃないよね?」

「……ああ」



ツキン、と胸に鋭い棘が刺さったみたいだ。


長くて抜けない、鋭い棘が。



「もう相手が真優さんでも誰でもいいよ。……私達、もう……無理、だよ」

「なんでっ……」

「私がね、蓮を信じてあげられなくなったの。ごめんね。私さえ我慢してれば、蓮にとって良い方に夢が叶うかも…って思って我慢してた。……だけど、私より真優さんの方が蓮には似合ってるんじゃないかな……」


私が身を引いたら、真優さんは蓮に対しての気持ちを隠さず猛烈に迫るんだろう。


瀬名さんも、多分蓮の夢への条件に、真優さんとの交際を薦めるのは目に見えている。



「あの女の事は何とも思ってない。たとえ瀬名さんの娘でも、だ。昨日よく分かった。俺はお前じゃないと、駄目だって。だから、」


そんな事を言わないで。


蓮は私を、二番目の女にでもしたいのかな?



「私がもう耐えられないの。浮気するくらい、私の事は想って貰えてなかったのかな……?」

「そんな訳ねぇだろ!!」




怒鳴る蓮は初めて見た。


それは私を迷わせるには充分だったけど。


でも、蓮の将来に必要なのは私じゃない。



真優さん、でしょ?




「……ごめんね、もう…無理。だけど」



だけど、この気持ちだけは言わせてね?



「大好きだったよ、蓮……」



あなたの事が、本当に、大好きだったの。








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