音匣マリア
――控え室ってどっちだよ――



案内された場所に来て俺は立ち止まった。




向かって左側が親族控え室。


右側が新郎新婦の控え室。




どちらに支配人がいるかは分からないが取りあえずどっちかにいるんだから、と俺は覚悟をきめて右側の扉を開け放った。



途端に後悔。いや、むしろ俺グッジョブ!


さっきの花嫁役のあのコが着替えの真っ最中じゃん。


これってラッキーじゃね?



とは言え目を逸らす振りをしながら彼女をちらりと見てみたら、一瞬目が合った。


うわマジやべー。どストライク!


「あらやだ海野さん、今は菜月ちゃんの着替えの真っ最中ですよ」


衣装係りのおばちゃんが非難の視線を俺に向けた。

「あ…すみません、支配人がここにいるってき聞いたもんで…」

「支配人なら事務室にいるはずですよ」


くすくすと笑いながら衣装係りのおばちゃんは俺にそう告げた。



……それより名前、菜月っていうのか。


菜月の白い肌を見て硬直した俺の後ろに、またもやさっきのケバい女達が群がって来やがった。



これ以上[菜月]の柔肌を人目に晒すわけにもいかず、俺は慌てて控え室の扉を閉めた。



「海野さん、今日はお店にいるんですかぁ?」

きっつい香水の匂いを纏わりつかせて、またもやケバい女達がくっついてきた。

お前らうるせーよ。おれは菜月の恥じらう着替え姿を堪能したいの!邪魔すんな!

「今日はいるけど店には出ねーよ」



一応俺も店長だし。


店長ともなれば、結構忙しいからな。だから、最近は店でシェイカーを振るのは、副店長の山寺や他の奴らに任せていた。



「考えたら、菜月ちゃんの歓迎会って、やってないんだよね。今日みんなで行かない?」

「海野さんの、飲みたぁい」

マジうぜぇ。けど、菜月が来るなら久しぶりに店に出るかな。

「そういう事なら、出てもいいけど」

「やったぁ!じゃ、仕事終わったらみんなで行きますねー!」

テメーら絶対ェ菜月連れて来いよな。

連れて来なかったら、今度からこの式場のフレアは中井にやらせてやらあ。
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