音匣マリア
山影が菜月にも話したというその内容を聞いて、疑問が湧いた。


山影の話は、あの女…真優が最低な女だという事を裏付けるには十分だ。



だけど、菜月は山影からその事を聞かされて、何故まず最初に俺に言わなかった?相談しなかったのか?と。




確かに瀬名さんの娘だとなれば、俺を気に入ってるらしい真優は菜月より有利に立てると思うかも知れないが、それはただの思い上がりだ。



そして、確かに真優は瀬名さんの娘という肩書きを利用して俺に強く言い寄っては来てる。

それは昨夜の件でも鬱陶しいぐらいに明らかだ。



だが……。


いや、もしかして、菜月もそう考えたのか?


瀬名さんの娘が俺を気に入ってるから自分が邪魔になるだろうとか、真優と付き合わなければ俺の立場が悪くなるとか……。



だから、俺には山影から聞いた話をしなかった?




それに思い当たって、呆然自失とする。


菜月は言いたくても言い出せなかったんじゃないのか?


相手が『真優』ではなくて、俺の恩師である『瀬名さんの娘』だと考えれば、いくら馬鹿女の悪口でも言えなくて、菜月は我慢するしかなかった?


そして、山影の言う通りの性格だとすれば、あの女は絶対に菜月に何かを仕掛けている。


それは昨夜あの女が自分でも菜月と接触したことを話してたじゃないか。



……菜月は俺のために、どれだけ我慢してくれてたんだろう。



それなのに肝心の俺自身が、つまらない意地を張って菜月を追い詰めるだけ追い詰めてしまった。



それどころか最悪な形で菜月を傷付けた。



そりゃ、俺を信じられなくなっても当然だろ?


今更言い訳なんかしたって意味ねぇよ。


だけど逢いたい。



……逢って、菜月を抱きしめたい。








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