音匣マリア
「ちょ、待てよ。あのさ、クリスマスなんだけど、23日か24日の夜に逢えねぇ?」


電話を切られてなるもんか、と俺は必死で携帯にしがみついた。

いや、クリスマスの23日や24日に俺が仕事を休めるわけもないんだけど、この日ぐらいは菜月に逢いたい。


『……2日とも多分駄目、かなぁ。だって24日にうちの式場でクリスマス・ナイト・フェアをやるんだけど……。蓮は呼ばれてないの?フレアショーは頼まれてない?』


ナイト・フェア?ブライダルフェアか?うちにはそんな依頼来てねぇぞ?中井さんの方に依頼が行ったのか?


「いや…初耳。どうしても駄目?」

『23日は準備で遅くまでかかるし、24日は本番だから……。ごめんね』


何、素直に謝ってんだよ。


俺の事、まだ許せないくせに菜月のこういうとこが可愛くてしょうがない。


「仕事なら仕方ないよな。今日もタクシー使って帰れよ。バスとか電車は痴漢が心配だから使うな」

『なーに、その上から目線。腹が立つんですけど。……蓮も無理しないでね』

「おう。おやすみ」


おやすみなさい、と言って菜月は通話を切った。


フレアの大会で優勝したことも言えなかったな。


……にしても、クリスマスに逢えないとなると、どうするか…。




シンガポールで行われる世界大会は来年の3月だ。


それまでに菜月にはちゃんとけじめをつけないと。



もう一度ベッドに寝転ぶと、睡魔が襲ってきた。


閉じてくる瞼をあげる力もなく、俺はそのまま寝てしまった……。





翌朝は気持ちいい寝起き、という訳にはいかなかった。

季節外れの豪雨に叩き起こされたからだ。


こんな天気の日に外出しなきゃいけないのは億劫になる。

でも、クリスマスのプレゼントは用意したいし。


シャワーを浴びてさっぱりしたところで、2階のバイキングレストランで朝食を摂った。


軽めに粥と味噌汁だけで済ませる。相変わらず朝は胃が働いてくれない。


レストランから戻り、荷物を纏めてチェックアウトを済ませた。

荷物と言っても、大会で使った道具類はみんな車に積んであるからホテルに持ち込んだ物と言えば着替えぐらいだ。



それを持って車に乗り、目指したのはブランドショップ。


俺が好きなブランド。


誕生日に、菜月が俺の為に選んでくれたネックレスもこのブランドだった。


都内にあるその本店に行ってみようとは、前々から決めていた。



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