音匣マリア
店の事を山寺や他の従業員に任せて、俺は式場の業者用の駐車場に車を乗り付けた。


荷物を下ろす前に、支社長と支配人に挨拶をしとくか…と考えて、館内に入る。


インフォメーションに立ち寄ると、血相を変えた小柳さん…菜月の先輩が俺に飛び付いて来た。うおっ、なんだこれ!?


「良かったあぁぁ!!ようやく海野さん来てくれて!中井さんから連絡行ってないのかって心配したよー。荷物は良いからこっちに来て!!!!」


腕を掴まれてぐいぐい2階に引っ張られた。

そして押し込まれたのはブライズルームの一室。


「さ、ここに入って!?」

「はあ!?ここ……」

「海野さんはこの3着ならどれを選ぶ?」


そして見せられたタキシードが3着。つまり、花婿用のタキシードを選べ…って事!?


「あのなんで俺が…。状況がイマイチ分かんないんだけど?」

「今日の模擬結婚式の花嫁役は、菜月なの。海野さんは菜月が他の男の人と結婚式挙げるの、許せるの!?たとえ模擬結婚式でも、だけど」



……菜月が俺の目の前で、他の男と……愛を誓いあう…?

たとえ演技でもそれだけは絶対許さねぇ!


菜月に誓うのは俺だけで良いんだよ!



「やる気になった?花婿役。それと、中井さん情報だけど、海野さん菜月にクリスマスのプレゼントを持ってきてるよね?それ出して」

「はあぁ!?」


なんでそこまでされなきゃなんねぇの!?


「良いから出すの!!…あ。まさか中身はネックレスとかピアスじゃないでしょうね!?」


ギロリと睨まれた。


呆気に取られた俺は反論する気力もなく、黙ってあのブランドショップの本店で買った、……指輪…を小柳さんに差し出す。


これ、恐喝じゃないの?なんか上手いこと騙されてるような気がする。


「さ、早く着替えて。軽くメイクもするからね。着替え終わったら教えて!」


慌ただしく小柳さんは出ていった。



何なんだよ、これ……。


こんなの聞いてねぇぞ!?




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