音匣マリア
そう言った先輩の携帯を見れば、確かに私の携帯の番号やアドレスが知らないアドレスに転送されている。


何なんだよ。

何でよく知らないヤツに、私の個人情報を知られなきゃなんないんだよ。


「でも、今日は菜月の歓迎会だから。主役は菜月って事で、よくない?」

「しょーがないからちょっとだけ、海野さんと話しさせてあげゆー!でも海野さんはうちらのだかんね!?狙っちゃダメよ、菜月!!」

「……ありがとうございます……」


誰もそんなヤツ狙わねーよ。


やっぱり来るんじゃなかったな。


先輩達は私をエサにして飲んでるし、知らないヤツに携番は知られるし。

こんな歓迎会なんて嬉しくない。



早いとこ理由をつけて、さっさと帰ろう。


「立ってないで、空いてるとこ座んな?」

不意に海野サンが話し掛けてきた。


「さてと……。何作る?」

席についた私の目の前に立って、海野サンがオーダーを促す。


カクテルの名前なんてぶっちゃけ知らねーし。何頼めってよ?


「お酒の名前、あんまり知らないから、オススメでお願いします……」


一応無難にそう答えて、私は海野さんから視線を逸らした。


「了解」


海野サンはそういうと、棚から何種類かの瓶を取り出して手際よく量っていく。


でもやっぱり、なんかここ居づらい。いつもなら居酒屋とかで気兼ねなく飲んでるから。


こういう洒落た店はあんまり来ないし。大体なんで、この人が私の事聞くんだろう?


「ほい。出来たよ」


スッと出されたカクテルは、赤い色。

飲んでみると、不思議に甘い。

ライチなのか、マンゴーなのか、フルーツの味がする。


「何ていう名前の、お酒ですか?」

「名前はねーよ。今即席で作ったからな」


へぇ。さすがプロだけあって、作るのは上手いんだ。


「他になんか、飲みたいの、ねぇ?」


いや、まずこれ落ち着いて飲ませて下さいよ。


「もー、海野さん、菜月にばっかりくっついてズルイー!私にも作ってー?」

「何作りゃいいってよ?」

「さっきの『アレキサンダー』お願ぁい」



先輩の甘ったるい声を聞きながら、海野サンがカクテルを作る様を眺めていた。

確かに、かっこいいけど。でも、あのショーの時の海野サンの方が、綺麗だと思う。


「フレア・ショーって、店ではやらないんですか?」


気になって、シェイカーを振る海野サンに聞いてみた。


見られるならもう一度、あのカクテル捌きを見たいと思ったから。

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