音匣マリア
「フレアは要予約なんだよ。それに一本5万円するんだ」

私が海野さんにフレアショーのおねだりをしていると、海野さんの横に立っていた黒ぶち眼鏡をかけたインテリ風の男の人が苦笑しながら値段を言ってきた。


うわ、フレアショーってそんなに高いんだ。


ホストクラブじゃあるまいし、一回の飲み代にそんなにお金はかけらんないや。


諦めて出されたカクテルをちびちび呑みだしたら、怒ったような口調で海野さんがさっきの黒ぶち眼鏡の人に注意をしている。


「山寺ぁ。テメーは黙ってろ」


あれ、私なんか悪いこと言った?


「何?フレア見たいの?」

海野さんはさっきの不機嫌な口調とはうって変わって、優しげに私に話しかけてくる。


その態度に少し安心した私は、フェアで見たショーを思い出して聞くだけは聞いてみた。


「昼間みたフレア・ショー、かなりかっこ良かったですよね」


海野さんはなぜか頬を赤らめて、しきりにお酒の瓶を撫で回している。


「いいよ。今やってやらぁ」

「ちょ、海野さん、マジで今からフレアやるんですか!?」


その隣で山寺さんとか言う人が慌てだした。

「カクテル一つ分だけだろ。何か文句あんのか?」


海野さんがどす黒い笑み付きで睨んだら、山寺さんはすごすごと引き下がってしまう。

え、これいいの?一回5万円だよね?タダでやってくれるの?



……ラッキーじゃん!!



「……一杯分でもいい?」

「やってくれるなら、なんでも良いでしゅ!」


へらっと海野さんに向けて満面の笑みを見せると、海野さんは「じゃあ準備する」と、さりげなく後ろを向いてお酒をセレクトしだした。


5万円のフレア・ショー。


独り占めなんて俺得すぎる!


手元の作業に意識を集中しながら、それでも海野さんは私に話しかけてくる。


私はと言えば、そんな海野さんの流れるような手捌きにただただ見とれていた。


「菜月……サンって、歳はいくつなの?」

「21歳!短大を卒業したばかりなんだよ」

「なんの短大?」

「ビジネス系」

「どんな……」

「え―――!!海野さん、菜月にだけフレアやってんのー!?あたしにもやってー!!」

「狡い、うちらにも!!」


海野さんを独り占めしていたのが癪に障ったのか、先輩の一人が私を押し退けてカウンターに身を乗り出した。



だからこういう席って苦手なんだよね。





昔からそうだった。



合コンに行っても、品定めするようなオンナやオトコのギラついた目は好きじゃない。


出会いなんて時の運じゃないの?

あからさまに切羽詰まったような目で、異性を見るなんてのは浅ましく見えて吐き気がする。


だから私は、兄貴や兄貴の友人がやってる店で、気がねなしに飲むのが性に合ってるんだろうな。







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