音匣マリア
「うぅ…暑い…」

「悪ぃ。久し振りだったから止まんなくて。大丈夫か?」

「……だいじょばない……」


風呂場で張り切って二回戦程コトをすませた後、いざ三回戦目に[突入]しようとしたら、菜月が逆上せたらしくぐたりとなってしまった。

急いで風呂から上げて水を飲ませたり体を冷やしてやって、なんとか熱も落ち着いてきたようだ。


どんだけ俺、がっついてんだって話。


「もうお風呂場ではやらない。鼻血出そうだった」

ぷーっと顔を膨らませて、菜月がそっぽを向いた。こうして拗ねたフリしてまた誘ってんのか、こいつは?

上等じゃんノってやるよ。今度はベッドで続きをしようか?


「菜月、こっち向いて?」

「やだ」

「菜月の好きなパパゲーナ作ったから、ほら」

「………」

あ、やっとこっち向いた。菜月が好きなパパゲーナはチョコ風味のカクテルだ。


グラスからそれを口に含んで、菜月の顎を持ち上げた。

口移しに甘い液体を注ぎ込んでやると、菜月の目が再び夢見心地の世界に誘われていく。




そのまま舌を絡め合い、二人で甘い余韻に浸っている時、また隣から何かを壁に投げつける音が響き渡った。


……おい、いい加減にしろよ。今何時だと思ってんだよ。


じゃなくて。俺らは、さぁこれからがイイところって時に何で邪魔してくれちゃってんだよ!?


よっぽど隣に怒鳴りこんで行ってやろうかと考えたが踏みとどまった。


阿呆らし。そんな事する暇があるんなら、菜月とイチャイチャしてた方がマシだ。




そんなのを無視して菜月を抱き上げて寝室に連れて行こうとすると、今度は玄関のドアを激しく叩く音。しかも、俺の部屋のドアが叩かれているらしい。


それでも無視しようとしたのに、今度はインターフォンを何度も連打された。


「…ねぇ、いいの…?」


菜月も困惑した顔でベッドの上から俺を見上げている。


「開けて!!助けて!!殺されるっ!!」


女の悲鳴がマンション内に響いている。


ここまでされたらさすがに出ないわけにはいかないだろう。


「お前はここにいろ」

菜月に短く指示すると、俺は玄関に向かった。


全くもっての不本意だが、仕方なく玄関のドアを開ける。


制止する間も与えられず、隣の部屋の女が室内に飛び込んで来るのを、俺はただ呆然と眺めていた。














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