浮気は、いいよ。
「幸太郎さん、『優里がオレと浮気してればいい』って思ってたんだよ」
悠介が眉間に深い溝を作った。
悠介は、沙耶香のために怒った。
悠介に味方して欲しいのは、沙耶香じゃなくてワタシなのに。
などと言う、コドモ以上に勝手でわがままな言い分で腹を立ててしまいそうな自分を、微かに残る冷静な部分で押さえ込む。
「・・・ワタシも浮気してれば、慰謝料なんて払わなくて済むもんね・・・」
ワタシはなんて器用なんだろう。
言葉を発すると同時に溜息が出た。 なんなら涙だって一緒に流せてしまえるだろう。
「・・・・そっか、フツーそう捉えるか」
悠介は何を言っているのだろう。
他にどんな捉え方があるというのか。
「お互い様なら、許されると思ったんじゃないのかな。
でも違うって分かって、優里の穴埋めを沙耶香でする為に沙耶香を保険にしようとしてる様な気がする」
………あり得ない。
レコーダーを再生した時、音だけなのに分かったんだ。
幸太郎は、沙耶香を欲しがってた。
ワタシは今まで、あんなに求められた事など1度もない。
穴埋めなんかじゃない。
穴なんて、空かない。
「そんなワケナイよ。 だってワタシ、離婚切り出してから話もしてもらえなくなったもん。 幸太郎に、結婚生活を続ける意思はないよ」
分かり切ってた事。
でも、言葉にすると尋常じゃなく辛い。
………気持ちが悪い。
「………車、停めよっか。 吐きそうなんだろ」
「………」
返事すら出来ない。
………出る。
停車を待てずに赤信号で止まった瞬間に車を飛び降りた。