浮気は、いいよ。
ポケットの中で携帯が震えた。
足を止め、携帯を取り出し画面に映る名前を見て、思わず不機嫌になる。
「・・・・はい」
「幸太郎さん、今電話大丈夫ですか??」
悠介だった。
「・・・・何の用??」
悠介は今日、優里に会ったのだろうか。
優里は元気なんだろうか。
『優里が堕ちない程度に、悠介が優里と浮気しててくれれば・・・』などと、自分勝手極まりない理由で悠介に苛立つ。
「なんで沙耶香の慰謝料を幸太郎さんが払うんですか??」
「悠介くんには関係ない」
理由など、最低すぎて言えるはずがない。
「『沙耶香が好きだから』って言う理由以外だとしたら、オレ、まじで幸太郎さんに殴りかかる勢いでキレますよ」
悠介はオレの汚すぎる考えを見抜いていた。
だからと言って、正直に認めるわけにもいかない。
「・・・・悠介くんは、優里が好きなの??」
答えたくないから話題を変える。
「答えません。 幸太郎さんがオレの質問に答えないのなら」
悠介はそれを許してはくれないらしい。
「好きだから答えないんだろ」
「じゃあ、幸太郎さんも卑怯な理由で沙耶香の慰謝料払うって事になりますね」
悪はやっぱり正義には勝てないんだ。
揚げたつもりのない足をすくい取られて、掘った覚えのない墓穴にはまる。
「幸太郎さん、優里も沙耶香もオレにとって大事な友人です。 2人を傷つけるのは許しません」
高校時代の優里はきっと、悠介のこういうところを好きになったんだ。
でも、優里が欲しいなら沙耶香の肩持っちゃダメだろう。
悠介はイイ奴すぎる、馬鹿な奴。
「オマエ、馬鹿だな」
「は?? 幸太郎さんの方でしょ??」
「まぁ、それもそう」
「さっきから何?? 全然話が噛み合わないんですけど」
悠介が苛立ちを抑えたような声を出した。
「じゃあ、電話切れよ」
「・・・・そうします。 じゃあ」
悠介は不服そうに電話を切った。
悠介に何と言われ様とも、やっぱりオレは沙耶香の部屋に行く。
だって、優里とはもう戻れない。