浮気は、いいよ。
沙耶香の部屋のベルを鳴らす。
「おかえりー。 遅かったね。 残業??」
沙耶香が笑顔で出迎えてくれる。
「・・・・ただいま」
自分の家でもない部屋、自分の妻ではない女に『ただいま』と零す。
浮気がばれる前からしていた事なのに、ばれる前には感じる事もなかった虚しさがこみ上げる。
もう、優里に『ただいま』と言う事も、優里から『おかえり』と言ってもらうことものないのかもしれない。
「幸太郎の好きなビーフシチュー作ったんだよ」
沙耶香はオレの鞄と上着を持ち上げて先に部屋に入って行った。
優里のビーフシチューを食べることも、もうないだろう。
靴を脱ぎ、沙耶香の部屋にあがる。
テーブルには、優里が作るビーフシチューとは違う色のそれがあって、となりには、優里が作るサラダとは違うドレッシングがかかったものがあった。
「お腹すいてるでしょ?? いっぱい食べてね」
沙耶香がニコニコしながらスプーンを口に運ぶオレを見ていた。
「うん、おいしい」
沙耶香のビーフシチューはうまい。
でも、優里が作るのとは違う味。
当然の事。