それだけ ~先生が好き~


「ただいま・・・」


久しぶりに言った「ただいま」は、リビングにいるお母さんに届いたのかな。


具合が悪いのかな?


お母さんは椅子に座ってうつむいたまま動かない。



長く茶色い髪で顔が隠れている。




「あ・・・お母さん、三者面談のお知らせ・・・置いとくね」


震える私の口から出る、弱々しい声。


静かな部屋に響く。



今日もらった三者面談のプリントをテーブルの上に置く。




その瞬間、お母さんが顔を上げた。


びっくりして、私は動けなくなってしまった。




疲れきっている顔。

痩せてこけた頬。




痛々しくて、でも目をはなせなくなった。





お母さんはゆっくりとプリントに手を伸ばす。



そして、そのプリントを



床の上に、放り投げた。



ひらひらと宙に浮くプリント。




怖い




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