それだけ ~先生が好き~
シアワセは、突然崩れ去った。
彼女の体の異変には先生も気づいていた。
病院に行け、と言っても大丈夫だと言い返す彼女がとても心配だった。
そんな彼女を先生は無理やり病院に行かせた。
その頃は小学校の教師だった先生は、職員室でそわそわしていた。
午後12時30分過ぎに、電話がかかった。
丁度昼休みだった先生は職員トイレへ駆け込み、電話に出た。
震えた声で、彼女が言った。
『がん・・・だって。もういろんなとこに転移してるみたい』
頭を金属バットで殴られたような衝撃。
彼女に何も言えなかった自分が情けないと・・・先生は悔やんだ。
支えてやらなきゃいけないのは自分なのに。
今一番不安なのは・・・翔なのに。
先生は・・・その日から恐怖と隣りあわせで生きていた。
いついなくなるかわからない。
いつ大切なもの失うか・・・わからない。
入院しても、どんな治療をうけてもいっこうに治る気配がない。
それどころか・・・日に日に弱っていく。
先生は、何も出来なかったと言った。
彼女が名前を呼ぶたび、泣きそうになるだけだった。