それだけ ~先生が好き~
あっけなく、彼女は逝ってしまった。
それからのことは覚えていないらしい。
ただ、目の前が真っ暗だったそうだ。
もう悲しいことがあっても支えてくれる人がいない。
その事実が先生をむしばんでいった。
指輪がむなしく輝くたび、自分を殺したくなった、と言った。
なんであの時笑わなかった?
なんであの時名前を呼んでやらなかった?
なんであの時・・・左手握ってやらなかった?
後悔だけが先生を飲み込んでいく。
薬指にした約束は・・・儚く消えていった。
それでも仕事はしなければいけなくて、仕方なく毎日学校へ行った。
指輪を・・・はずすことができない。
はずしてしまったら、翔がいなかったことになる気がするんだ、と指輪を上下に動かしながら先生は言った。
先生の言葉ははっきりと私の心に響いた。
一生忘れてはならない人。
それだけは、わかってた。