それだけ ~先生が好き~
「城田!」
帰りのHRの直後、かばんを机に置いたままうつぶせの状態の城田を呼んだ。
眠たそうに、振り返ると・・・笑いかけてくれた。
緊張してたのが一気に嘘のように解けた。
「うん、今行くわ。あー・・・ねみぃ」
大きく伸びをして、深呼吸をする。
本当、背が大きい。
先生をそのうち越してしまいそう。
無言のまま、廊下を歩く。
向かうのは・・・美術室前の廊下。
人通りの少ない廊下。
あそこで、城田が私を・・・抱きしめた。
好きって言ってくれた。
私の一歩前を歩く城田は、ポケットに手を入れて・・・いつもと何も変らない。
ワックスで無造作に整えられた髪。
腰ではいてるダボダボのズボン。
ズボンのベルトは、私が誕生日にあげたスタッズがたくさん付いたやつ。
ボタンをたくさんあけたワイシャツの下にのぞく、黄色のTシャツ。
いつもと同じなのに。
いつもみたいに、笑えない私がいる。
今にも泣き出しそうな私がいる。