それだけ ~先生が好き~
教室にはもうすでにチョコのにおいが広がっている。
友達同士で渡し合ったり、渡し歩いたり。
予鈴で担任の『こら、座れ!』の声が響いて、しぶしぶ静かになる。
そんな浮かれた中、私は紙袋を見つめたまま悩む。
ピンクの小さな紙袋の中に、昨日つくったチョコが入ってる。
城田は・・・まだ来てないかぁ。
遅刻だろうなぁ。
なんて言って渡せばいいんだろ。
先生は・・・今年はチョコいくつもらうんだろ。
晴香からは・・・もらうのかなぁ。
昨日メールで先生に作る、と張り切っていた晴香の声がよみがえる。
渡さないで、って言いたかった。
でも、それはただのわがまま。
私の心の中の・・・汚い気持ち。
先生を想うのは、自分だけでいいって・・・気持ち。
横顔も後ろ姿も、全部全部見つめていいのは・・・私だけなんだって、思ってたかった。
先生を想うと、私はわがままになる。
臆病になる。
泣き虫になる。
それが恋なのかな。